VOYAGER

片岡義男.com 全著作電子化計画

MENU

評論・エッセイ

デラックス・ダブル

 ものすごく暑い日だった。かんかん照りだった。そして湿度が、限度いっぱいに高かった。暑さとかさなりあったその湿度は、具体的な重みとして、全身にのしかかってくるようだった。そんな日の、午後まだ早い時間に、ぼくは彼女と会った。会いましょうよと彼女が電話をくれたから会ったわけだが、これをデートと呼ぶには、彼女とのつきあいは長すぎていまさらきまりわるい。
 東京にしてはかなり居心地の良い場所で一時間ちかくすごし、ぼくたちは外に出た。湿気と暑さはさらにいちだんとはげしくなっていたから、陽の直射する歩道を肩をならべて歩きつつ、ぼくた…

底本:片岡義男エッセイ・コレクション『「彼女」はグッド・デザイン』太田出版 1996年

このエントリーをはてなブックマークに追加