金曜日の午後の飛行機だった
二階にあるコーヒー・ショップの、奥の窓ぎわの席で、ふたりは小さなテーブルをはさんでさしむかいにすわっている。「コ」の字型の建物が内側へかこいこんでいる内庭のようなスペースを、ふたりは窓ごしに見おろすことができる。内庭には、樹がたくさん植えてある。濃い緑の葉が無数にかさなりあう何本もの枝が、窓ガラスごしにふたりのすぐ目の下に見える。
「きれいだね」
と、彼が彼女に言った。
彼女は、彼を見た。整いきってどこにも欠点のない美しい顔に淡く微笑をうかべ、
「なにがきれいなの?」
底本:片岡義男エッセイ・コレクション『「彼女」はグッド・デザイン』太田出版 1996年
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