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評論・エッセイ

移民の子の旅 1 ホノルル、一八六八年

移民の子の旅 1
ホノルル、一八六八年



 夜明けと共にワイアナエとコオラウの山なみの頂きに雨雲がとまりはじめた。空が白んでいくと、雨が来た。大粒の重い雨だった。草ぶきの屋根を叩き、板張りの小屋の壁を横なぐりにし、樹の葉にひっきりなしに当たっては、はじけた。たくさんの樹にしげっている無数の葉に、おなじように無数の雨滴が当たった。泥道は、たちまちぬかるみになった。それよりもさきに、ふと、寒くなった。空から地面めがけて、冷えた雨滴がいっせいに通過する。空気は冷却されるのだ。カ…

初出:『ミステリマガジン』一九七五年八月号
底本:片岡義男エッセイ・コレクション『僕が書いたあの島』太田出版 一九九五年

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