コーヒー・ブレイク
読んでいると、ドキドキする。映像が浮かぶような小説。
路地に入る白いセダンに道を譲ったV6のドライバーの男性は、自分が止めた駐車場に、その白いセダンがバックして止めるのを見ます。セダンから降りてきた美しい女性に見覚えがあると思っていると、彼女から声をかけられます。彼女は10年ぶりに会ったかつての交際相手でした。久しぶりに再会した男女が、ほんのひと時、コーヒースタンドでおいしいコーヒーを飲み、そして別れる、その様子がスケッチされた掌編。そこから物語が始まることがない、それが分かるラストシーンの哀切と、コーヒーブレイクの時間の豊かさのコントラストが鮮やかです。
底本:『ふたり景色』角川文庫 1984年
初出:「月刊カドカワ」1984年5月号
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