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評論・エッセイ

街へ出て 故郷のスケッチ

 故郷を失いながらなおもそこにとどまった人たち、あるいは心ならずもそこを去った人たちが、ともに涙しながら歌ったのは、「夢はいまもめぐりて、忘れがたき故郷」と詠じる歌だった。すでに失われて久しい、淡い文語調の日本語ならではの、心象の喚起力を誰もがそこに見た。故郷を流れるのはいまも「小鮒釣りしあの川」であり、これをたとえば「きみと僕がまだ幼かった頃、あの川で魚を釣ったね」とでも言い換えると、それは記述ですらない。
 詠嘆という言葉の営みのなかに心の故郷がある、と頭のなかで呪文のように唱えていたら、その思いは多少の飛躍を得て、ス…

『THE NIKKEI MAGAZINE』No.106 二〇一二年二月十九日

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