先見日記 パトリシア・ハイスミス
パトリシア・ハイスミスの本をすべて買うことを僕が最初に思ったのは、20代なかばのことだ。なぜだか理由はよくわからない。名前が気にいったのではないか。字面でも音でもきれいで端正だし、手ごわい印象は存分にあり、影の奥行きは深そうだ、と20代の僕は思ったのだろう。ペーパーバックを盛んに買うついでに、ハイスミスのものがあればそれはかならず買っていた。
彼女の最初の長編は『汽車に乗り合わせた人たち』というような意味のタイトルで、小説として高く評価されたし、アルフレッド・ヒッチコックによって映画になった。映画も好評だった。しかしそ…
『先見日記』二〇〇四年十二月十四日
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