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評論・エッセイ

先見日記 泣きっ面に蜂

 数多くのことわざや格言によって、日本は自他を律してきた。ことわざや格言をたくさん集めて解説した、精緻をきわめた辞書を拾い読みしていくと、その感を強くする。日本のすべてがこの一巻の辞書のなかにある、とさえ僕は思う。
 泣きっ面に蜂、ということわざは、おそらく誰でも知っているだろう。理由はともかく、人が泣きっ面をしていると、そこへ蜂が飛んできて刺すのだから、破壊されつくす以前の素朴な自然環境のなかでこそ、成立したことわざだ。
 自分の体験のなかに、泣きっ面に蜂ということわざが、まさに当てはまるものがあるかどう…

『先見日記』二〇〇三年四月二十九日