先見日記 そら豆ご飯を考える
上海料理の店で前菜を選んでいたら、「そら豆の季節ですよ」と言われた。そう言われたなら食べないわけにはいかない。ごく標準的な出来ばえのそら豆を、鞘から取り出して茹でる。それを、炒める、という言葉を使うことにためらいを覚えるほどに、ごく軽く、きわめて淡く、炒める。使う油は、もっとも香りの少ない種類のオリーブではないか。その店では薄味の極みのように仕上げてあるが、味の芯はしっかりとある。その中心は塩だ。あとでつける塩味ではなく、茹でるとき、あるいは茹でる前に、そら豆にもぐり込ませておく塩味かもしれない。塩のほかにもうひとつ味が重なっている…
『先見日記』二〇〇三年四月八日
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