そしてその他の物語 第32回(最終回)
薄いボール紙で作った小さな箱に、可愛らしい長方形のチューイングガムが、おそらく二十数個、入っている。これをスーパー・マーケットの菓子売り場で目にとめ、買おう、ときめるまでに五分なんて絶対にかからない。三分でもない。もっと短い時間のなかで、その決意はなされる。五秒ほどだろうか。やや遅くてそのくらいか。早くて二秒、と僕は思う。あいだをとって、三秒ということにしておこう。目にとまってからひと箱を買うための決断にいたるまで、このチューイングガムの場合、三秒という時間を必要とする。
いつだったかこの連載のなかで書いたと思うが、チ…
『Free & Easy』二〇一三年三月号
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