そしてその他の物語 第27回
チューブ入りの食料品類をめぐって、僕が真剣な興味を展開するきっかけとなったのは、今年の春先に、チューブに入ったマロン・クリームを一本、パリのおみやげとしてもらったことだ。冗談としてのパリみやげだが、クレム・ドゥ・マロンは英語で言うとチェスナット・スプレッドだという発見など、なかなかに得難いものがあった。写真のなかでは綴じ目の右側、時計の文字盤になぞらえるなら五時三十分の方向に尻を向けているチューブが、マロン・クリーム七十八グラムのチューブだ。クレマン・フォジェというブランド名で、百年前の発売このかた、豊かな栗の風味はまったく変わって…
『Free & Easy』二〇一二年十月号
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