VOYAGER

片岡義男.com 全著作電子化計画

MENU

評論・エッセイ

東京縦画面 幸福の舞台装置

 雨露をしのぐ、という古風な言いかたがある。いかに兎小屋であろうとも、夜は自分の家で布団にくるまって眠り、屋根は雨を瓦に受けて樋に流し、戸は露をさえぎってなかにいる人を濡らしたりはしない、というような意味に加えて、衣食もいまのところなんとか足りているという、庶民的な幸福の最小単位がいま自分の手のなかにあることを、雨や露という自然現象に託して言いあらわす、したがってそれゆえに古風な言葉のひとつだ。東京に生きる人の幸福という舞台を装置するにあたって、欠かすことの出来ないふたつの要素が、それぞれ見事なまでの光景となって、この二ページにある。…

『Free & Easy』二〇〇三年十一月号

このエントリーをはてなブックマークに追加