VOYAGER

片岡義男.com 全著作電子化計画

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評論・エッセイ

アメリカン・マッスル グレイハウンドの影

 北アメリカ大陸の大きさを体感するには、グレイハウンドの大陸横断路線にひとりで乗るのがいちばんいい。大陸の大きさとはじつは力なのだ、という事実を自分の全身で痛感することが出来るからだ。
 夜の十時頃にカリフォルニアのどこかを出発して、そのまま夜を徹して走り続けるグレイハウンドにひとりで乗る。西の端から東の端までバスでいくのだから、多少は気持ちがたかぶる。だから十二時を過ぎる頃まで目はさえている。窓の外の広大な夜のなかに視線を向けたりしているが、やがて眠くなる。うとうとする。ときどき目が覚める。バスはひた走る。外にある夜の闇…

『Free & Easy』二〇〇五年八月号