片岡義男のぼくのお気に入り道具たち 部屋全体が海になる─『音で感じとる海』を集めてみたい─
すこし離れた地点の、道路の端からその家をながめると、いまにも断崖の上から轟々と音をたてて転落していきそうに見えた。だからぼくはその家のなかへ入るときかならず小さな不安を覚えた。しかし、太平洋のながめは素晴らしく、何日もつづけて滞在させてもらったこともある。
太平洋に面してフロアから天井まで大きくガラス張りとなっている居間のような広い部屋は、ガラスに近づいて下を見ると、絶壁のはるか下の、力強い岩場と、そこへいつも砕けつづけているおなじく力強い波とが、見えた。
夕陽が海の彼方に沈んでいくのをその部屋のフロ…
『BE-PAL』一九八五年三月号