片岡義男のぼくのお気に入り道具たち 心なごむあたたかな光 アーリーウィンターズ製キャンドルランタン
外房の海から歩いて十五分ほどのところにある、すでに人の住まなくなった大きな農家に、ぼくはかつてひとりで住んでいたことがある。かやぶき屋根の、古風な農家の典型のような建物だった。農業をやめてしまった持主から、ただ同然の安い料金で借りて、ひとりで住んだのだ。料金を一年単位できめて前払いしたせいだったと思うが、一年間ぼくはそこに住んだ。
持主にとってその農家は捨てたもおなじであったから、たとえば電話はとりはずしてあり、電気もとまっていた。実費さえ払えば電気も電話もつけてあげる、と持主は言ってくれたのだが、ぼくは両方ともこと…
『BE-PAL』一九八四年四月号