小説のためのメモを書くのに僕はいま万年筆を使っている。自分の字とその書きかた、そしてその字の用途の三つをよく考えると、もっとも適した筆記用具は万年筆だ、と結論したからだ。この結論が変わることはない、と確信している。数年前のことだ。もう十年くらいにはなるだろうか。
万年筆を選ぶのは簡単だろう、と僕は思っていた。簡単ではなかった。購入して自分のものにしたあと、自宅でいろんな紙に文字を書いてみないことには、その万年筆が自分に適しているかどうか、判断できないからだ。これは駄目だな、となった万年筆は、そのままにしておくほかない。…
『酒林』100号 二〇二〇年九月