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片岡義男.com 全著作電子化計画

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評論・エッセイ

僕はかつてボールペンだった

 ボールペンというものを僕が初めて手にしたのは、八歳あるいは九歳くらいの頃ではなかったか。ボールペンの構造は、そのときすでに知っていた。あるいは、そのとき教えられて、すぐに理解した。
 軸の先端に金属製の小さな三角錐があり、その三角錐の突端に、ごく小さな金属製の球体が一個、はずれて落ちないような精密な加工で保持され、軸のなかにはインクの満ちた芯があり、紙の上で書くと金属の球体は保持機構のなかで回転し、その回転によって、芯のなかにある粘性の高いインクを、小さな球体のぜんたいがからめ取っては、紙の上に移していく、という一連のメ…

『酒林』第九十一号 二〇一六年一月

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