二、三年前、当時の僕が書いたいくつかの短編小説を新聞で批評した文芸評論家が、いまにいたってもこのような短編を平気な顔して書くことのできるお前は、「いったい何者なのか」と、なかば自問自答していた。作家としての正体のようなものを、その評論家はつかみそこねていたのだろう。
僕は何者なのか。変わり者。偏屈者。お調子者。跳ねっ返り者。浮気者。者という字を「もの」と読む、者の例はたくさんある。働き者。若い者。使いの者。親切者。奢る者。無用の者。これは、「無用の者、入るべからず」という注意書きで子供の頃によく見かけた。その者、という…
『酒林』第八十八号 二〇一四年九月