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片岡義男.com 全著作電子化計画

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評論・エッセイ

水鉄砲をふたつもらった

 午前中最後の電話は彼女からだった。
「会いましょうよ。久しぶりに」
 と、彼女は言った。
 桜が終わる季節に会って以来、猛暑の真夏のまんなかであるいままで、彼女とは会っていなかった。
「大変な暑さだよ」
「私は平気です」
「僕も暑さなら歓迎だ」
 会うとは言っても、なにをするわけでもないし、しなければならないことは、なにひとつなかった。ごく気楽に、ただ会うのだ。イラストレーターである彼女と、作家である僕とのあいだには、仕事の話がひとつだけ存在していた…

『酒林』80号 二〇一〇年十一月

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