庭にあるタイル張りの箱
水着姿の裕美子は廊下から居間へ入った。そしてソファに囲まれたテーブルへ歩いた。父親より三歳だけ年上の伯父の自宅にいま彼女は来ている。建築家の伯父は真夏を避暑地の別荘で過ごす。伯父に子供はいない。夫婦だけの生活だ。だから留守番がわりに裕美子が、この家で夏の四週間ほどを過ごす。彼女が大学生の頃からの習慣だ。住みやすい快適さにくらべて、家そのものの造りは好ましい簡素さで貫かれていた。裕美子はそれが気にいっていた。
透明なアクリル板を貼り合わせて作ったケースがテーブルの上にあった。裕美子はそれを手に取った。新聞一ページほどの大…
『Coyote』No.26 二〇〇八年四月号
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