ブロッサム・ディアリーを忘れていた。ときどきは思い出していたのだが、その録音を聴くことはなかった。十年くらいは聴いてない。もっとだ。二十年か。どれほどに長いあいだ、いったいなぜ、僕はブロッサム・ディアリーを忘れていることが出来たのか。そのあいだの僕は、どこでなにをしていたというのか。
最初に彼女のことを知ったのはLPを介してだった。僕はかつてFM東京の二時間番組を、週に一度の深夜におこなっていて、その番組でかける音楽は基本的には僕の責任だった。どんな曲をかけるか、選ぶのは僕の仕事だった。LPを何枚もデスクに置き、そのす…
『図書』二〇二一年一月号