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片岡義男.com 全著作電子化計画

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評論・エッセイ

散歩して迷子になる 40(最終回) 現在に過去と未来を重ねるには

 僕が自分で書く小説の材料はすべて自分のなかにある、という話はすでに何度も書いた。自分のなかとは、この生き身の僕の頭のなか、ということだ。さきほど顔と手を洗ったとき、洗面台の三面鏡に映った自分の頭を僕は見た。「ご苦労な頭だねえ」と、ひとり声に出して言ってみた。リーゼント、と多くの人が呼ぶ髪形を冠した、平々凡々、ごく普通の頭だ。猿蟹合戦というお話のなかに登場する栗が、たき火のなかではじけたようなかたちが、特徴と言えば言えるだろう。東京から疎開した山口県岩国の、瀬戸内の小さな町で五歳の僕を初めて見た遠い親戚のおじいさんが、「坊はえずい(賢…

『図書』二〇一一年七月号

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