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評論・エッセイ

散歩して迷子になる 39 若年労働者と一枚の小切手

 僕が自分で書いた文章に対して、報酬が支払われた最初の例は翻訳だった。アメリカの主としてハードボイルドな推理小説の短編を中心に、日本人の書き手によるさまざまな文章を取り混ぜて一冊にした月刊の娯楽雑誌に、その翻訳は掲載された。一九六二年の二月のことだったというから、僕はまだ大学の三年生だった。
 その雑誌の編集者から手渡しで受け取ったか、あるいは経理の担当者から郵送されて来たのか、そこまで細部の記憶はないが、支払われた報酬は一枚の小切手という紙片に収斂されていた事実は、それから半世紀近くの時間が経過したいまでも、くっきりとし…

『図書』二〇一一年六月号

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