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評論・エッセイ

散歩して迷子になる 38 フィクションの人になりたい

 自宅でデスクに向かい、ひとり小説の原稿を書いている僕という人は、現実の日常を生きているこの生き身の僕だが、そこには同時にもうひとりの僕がいる。フィクションとしての僕、という言いかたしか出来ないような種類ないしは性質の僕がいて、小説を書いているのはじつはそちらのほうの僕だ。
 僕はなにを言いたいのか。現実のなかに生きていて、そのごく小さな一部分である生き身の僕、という直接性のままに僕が小説を書くことはあり得ない、ということをまず言いたい。今度はぜひこれを書きたい、という願望が生き身の僕のなかに沸き上がり、それを主人公に託し…

『図書』二〇一一年五月号

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