散歩して迷子になる 37 短編小説を書く途中で
自分で書く小説のための材料は、少なくとも書き始める段階にまでいたれば、すべて自分のなかにある。そしてその自分がひとりで考えながら、ひとりで書いていく。最初の一行から最後の読点ひとつにいたるまで、すべてを僕が書く。
小説のなかで中心的な存在となってその役割を担う人、あるいは人たちは、主人公と呼ばれている。だからここでもその言葉を使うとして、主人公たちだけではなくあらゆる登場人物を、僕ひとりが作っては言葉で造形していく。
主人公とは、いったいなになのだろうか。主人公がなにを考え、なにを思い、それらにもとづいて…
『図書』二〇一一年四月号