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評論・エッセイ

散歩して迷子になる 35 西伊豆でペンを拾ったら

 そのとき僕は二十六歳だった、ということにしておこう。架空の話ではなく、過去の現実として。正確に何歳だったか、いまとなっては特定することはほぼ不可能だ。しかし、二十六歳ではなかったとしても、誤差は二年とないはずだ。
 二十六歳の僕は、ある日の夜、おそらく年上の編集者との待ち合わせのため、新宿のゴールデン街にあった一軒のバーへ、ひとりで入った。ゴールデン街、あるいはその周辺。なんという店だったか、それも特定は不可能だ。過去のあるときから現在までの時間が長くなればなるほど、その過去のなかのディテールを特定することは、不可能へと…

『図書』二〇一一年二月号

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