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片岡義男.com 全著作電子化計画

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評論・エッセイ

散歩して迷子になる 32 四百字詰原稿用紙で三十六枚

 書店で一般に市販されている雑誌に僕が最初に書いた文章は、自分の文章ではなく翻訳だった。ここで当人にとって早くもひとつの問題が提示される。自分の文章ではなく翻訳だった、とたったいま僕は書いた。確かにこの自分が翻訳して日本語で書いたものだが、それは自分の文章ではないのか、という問題だ。自分の文章ではない、とひとまず言っておこう。ここでこう言ったからといって、この問題がそれで解決したことにはならない。
 当時はまだ若いと言っていい年齢の、現役だったはずのアメリカの男性作家が書いた、広い意味でのミステリー風味の短編だった。僕によ…

『図書』二〇一〇年十一月号