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評論・エッセイ

散歩して迷子になる 26 かたちのないもの、という幸せ

 大学を卒業して自動的に商事会社に就職した僕は、会社勤務の初日から、仕事で多忙な日を送った。あのような仕事の現場が、そしてあのような忙しさが、実社会というものなのだろうか。あれが現実というものなのか。実社会であり現実であることはまず確かだと言っていいが、それはきわめて小さな一部分だろう。そして圧倒的に多くの人たちが、自分が身を置いているきわめて小さな一部分を、現実のぜんたいだと錯覚して、人生を送っていく。
 現実のなかで会社の仕事がいかに忙しくても、使役しているのは自分というぜんたいのほんの一部分であり、もっと全面的に自分…

『図書』二〇一〇年五月号

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