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評論・エッセイ

散歩して迷子になる 25 若年労働者の勤勉なる日々

 僕が中学校を卒業したのは一九五五年だ。高校への進学率はまだ低かった、と記憶している。統計的な数字は調べればはっきりするだろう。僕が記憶しているのは、高校の入学試験を受けた人たちの数がクラスのなかでごく少数であり、試験を受けなかった人たちは、その限りにおいて、あるときふっと消えてしまったように感じた、というようなことだ。クラスは男女半々だった。女性たちはほとんど進学せず、男性たちの高校進学率は、僕の体感的な記憶では、三分の一以下だった。
 高校へ進学しなかった人たちは、十五歳で世のなかへと出ていき、文字どおりの最若年労働者…

『図書』二〇一〇年四月号

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