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評論・エッセイ

散歩して迷子になる 23 ひとり外に出て孤立する

 一九七三年の秋の初めだったろうか、来年の春に新しい文芸雑誌を創刊するから、きみはそこに小説を書け、と創刊の責任者に僕は言われた。「書かなくてはいけないし、書かなければきみは駄目になる。書けない奴にこんなことは言わない。きみは書けると判断したから言うのだ」という忠告的な命令に感じるところがあったので、その年の暮れ近くに、僕は四百字詰めの原稿用紙で七十枚ほどの短編小説を書いた。
 二日ないしは三日で書いたのだが、大変だった。文章を書くことと直接につながった、それまで体験したことのない性質の苦労のなかを、僕はくぐり抜けた。一九…

『図書』二〇一〇年二月号

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