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評論・エッセイ

散歩して迷子になる 22 材料はすべて自分のなかにある

 日本における大衆の時代は昭和十二年(一九三七年)に始まった、という文章をかつて僕はどこかで読み、いまでも記憶している。ごく一般的な歴史年表の本を手に取り、昭和十二年のページを開いてみる。政治・経済、世界、社会、世相と、四つに区分けされて、昭和十二年が月日順にいくつもの項目になっている。ぜんたいを見渡すと、太平洋戦争に向けて日本は急傾斜を転げ落ちつつあった、ということはすぐにわかる。
 七月には日中戦争が始まっている。国民精神総動員実施要綱、というものを日本政府は決定した。十二月には南京が占領され、日本国内ではそれを祝賀し…

『図書』二〇一〇年一月号

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