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評論・エッセイ

散歩して迷子になる 21 青年と世のなか、そして日本語

 あと数日で二十三歳になる、という頃に大学の卒業式があった。式が終わるまではまだその大学の学生なのだろうけれど、いったん終わってしまうと、そのときを厳然たる境界として、もはやその大学の学生ではなくなってしまう。単なる本年度卒業生のひとりでしかない。大学生として過ごした四年間のなかで、僕がもっとも感銘を受けたのは、この平凡な事実だった。
 大学を卒業すると、否も応もなく世のなかへと出されてしまう、という事態は引き受けざるを得ないものだった。二十三歳はもういい歳だ。自分がその身を置いてきたモラトリアムは、中学校から数えると十年…

『図書』二〇〇九年十二月号

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