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評論・エッセイ

散歩して迷子になる 18 一九五三年からの日本語

 一九四四年の秋深くに、僕は東京から山口県の岩国へ疎開した。数年後には広島県の呉へ移り、一九五三年の夏、東京へ戻って来た。四歳から十三歳までの九年間、少年期の前半と言っていい期間を、僕は瀬戸内で過ごした。その日々は楽しいものだった。生活の状況や環境を、子供は選ぶことが出来ない。だから僕もすべてを受けとめるほかなかった。受けとめるあらゆるものが快適だった。ただ無心に遊んでいればそれでいい、という内容の日々を僕は送ることが出来た。
 敗戦の次の日から日本では復興が始まった。これは小学校一年生だった僕の体感だ。現実の動きはあとで…

『図書』二〇〇九年九月号

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