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評論・エッセイ

散歩して迷子になる 17 ふたつの日本、ふたつの言葉

 幼い僕が物心ついた時期は、太平洋戦争での日本の大敗戦と重なっている。僕というひとりの人の戦後史を、いろいろな側面から書いていこうとすると、要となる事実は、側面ごとに繰り返し記述しなくてはいけない。何度書いても核心については変化はあり得ないが、その語りかたには多少の変奏が許される。
 広島に原爆が投下された日の朝、あの時間に山口県の岩国で外を歩いていた幼い僕は、原爆が炸裂した瞬間の閃光を、背後から受けとめた。閃光は前方へと走り抜けて消えた。きれいに晴れた真夏の朝の太陽光とはまるで性質の異なった、じつに奇妙な光だった。太陽よ…

『図書』二〇〇九年八月号

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