VOYAGER

片岡義男.com 全著作電子化計画

MENU

評論・エッセイ

散歩して迷子になる 16 なぜ買うのか、それが問題だ

 太平洋戦争で大敗戦を喫したあとの戦後の日本で、僕の父親はGHQ民生局の職員として、占領アメリカ軍のなかで仕事をしていた。すでに書いたことだが、そのいくつかを僕は繰り返す。僕は復習をしようとしている。その父親は米軍兵士たちがさまざまに読み捨てたペイパーバックあるいは廃棄されるペイパーバックを、大量にもらい受けて自宅へと持って帰った。本は捨てるものではなく読んで役に立てるもの、という信条を実行しただけだったと思うが、このおかげで僕の自宅には戦後の日々のなかでペイパーバックが増え続けることとなった。
 敗戦の年に六歳だった僕に…

『図書』二〇〇九年七月号

このエントリーをはてなブックマークに追加