散歩して迷子になる 12 半年分の収穫に囲まれて思うこと
神保町にいまもあるその店の名前は、子供の頃から知っていた。東京で外国の本を売っている店として、まるできまり文句のように多くの人が言う、「丸善、紀伊国屋」の延長線上に、情報としてその店の名はほぼかならずあったからだろう。
大学生の頃に早稲田から都電で神保町へと出ていき、古書店をまわってはアメリカのペイパーバックを買っていた僕は、この店までいくことはほとんどなかった。当時の僕にとってのペイパーバックのルートの外に、この店は位置していたからだ。大学を卒業してフリーランスの書き手となり、神保町を根拠地にして仕事をしながら、ペイ…
『図書』二〇〇九年三月号