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評論・エッセイ

散歩して迷子になる 8 良き刺激は大いにかさばる

 太平洋戦争に日本が大敗戦した年の冬には、当時の僕がいた岩国の祖父の家には、アメリカのペイパーバックがすでにかなりたくさんあった。連合軍が日本を占領したすぐあと、僕の父親は日本という現地でGHQに雇われた民生局の局員のひとりとして、早くも仕事を始めていた。仕事先で手に入れたペイパーバックを自宅へ持って帰ったり、出張先から自宅宛に送ったりしていたのだろう。五歳の僕がふと気づいたときには、自宅の使っていない部屋の奥に、壁に沿って積み上げたペイパーバックの列がすでに何列もあった光景がいまの僕の記憶の底に淡く残っている。
 父親の…

『図書』二〇〇八年十一月号

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