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評論・エッセイ

散歩して迷子になる 7 こうして始まった神保町の日々

 一九六一年の神保町に、洋書だけを扱う露店がまだ二軒あったことは、その頃の東京についていろいろと思い出してみると、不思議でもなんでもない。東京の坊やである僕は赤子そして幼児の日々を目白で過ごした。そこを五歳で離れて瀬戸内へ移り、十年ほどをへて、十三歳のときに東京へ戻った。それから十二年後、二十五歳のとき、僕は幼児期を過ごした目白の家のあった場所へいってみた。家だけではなくその周囲のすべてが、僕の記憶どおりに残っていた。二十年という時間をへているにもかかわらず、自宅もその前の道も、そして近所の家やそのまわりのいっさいが、なんの変化もなし…

『図書』二〇〇八年十月号

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