散歩して迷子になる 3 彼女が手に下げていたランタンの明かり
少年の僕を近所でよく見かけると言った、神保町の三省堂に勤めていた青年がくれたペイパーバックは、ベス・ストリーター・オルドリッチという女性が一九二八年に出版した、“A Lantern In Her Hand”という小説だった。表紙をはがして返品したあとに本体だけが残ったそのペイパーバックを、僕はいまでも持っている。一九二八年の初版以来、一九四五年までに七十七版を重ねた。一九四二年には別の出版社からも刊行され、一九四五年までの三年間で三版となった。二十年間にわたって売れ続けた、人気のある小説だったようだ。
ポケット・ブック…
『図書』二〇〇八年六月号