散歩して迷子になる 1 ペイパーバックの山を作る子供
太平洋戦争の大敗戦の年に五歳だった僕がまだ六歳になる前から、自宅にアメリカのペイパーバック本が目立ち始めた。ふと気がつくと、家のなかのあちこちに、ペイパーバックがあるのだ。占領アメリカ軍で仕事をしていた父親が、仕事の現場でいろんな人たちからもらったものを、自宅へ持って帰っていたからだ。人が読んだもの、人が捨てようとしているもの、基地のいろんなライブラリーが破棄しようとするものなど、もらえるものはすべてもらって来て、自宅に置いていた。もらって来て自分で読む、というわけでもなく、とにかくそれは本だから捨ててはいけない、捨てるなら自分がも…
『図書』二〇〇八年四月号