廃墟の明くる日 思い出はキャラメルの空き箱
夕方の下り各駅停車のいちばんうしろの車輛からは彼ひとりだけが降りた。その一輛前からは若い女性がひとり降りた。中間のいくつかの車輛からは、降りた人はいなかった。先頭の車輛から三輛目までの車輛からは、数人の人たちが降りた。彼らがひとかたまりになって、プラットフォームの端にある改札口に向かった。女性のすぐうしろを彼は歩いた。プラットフォームを歩いていくのが自分と彼女のふたりだけになったとき、前を歩く女性の姿のぜんたいを、彼の意識がとらえた。歩きかたの美しい、姿のいい人だ、と彼は思った。彼女が改札を抜け、続いて彼も駅の外に出た。この女性は自…
『Coyote』No.13 二〇〇六年九月号
前の作品へ
次の作品へ