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片岡義男.com 全著作電子化計画

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小説

廃墟の明くる日 考えておく、と彼女は言う

 自分の部屋で彼はさきほどまでラジオを聴いていた。六畳の広さがある部屋の、窓のあるほうの長い一辺に沿って、その長さいっぱいに、机が造りつけてあった。ほどよい奥行きの、頑丈で単純な造りだ。引き出しはなく天板だけで、支える脚が両端の四本を加えて合計で八本あった。さまざまな物を置いておく棚としても使うことが出来た。二十三歳の彼は自分の生活にかかわるすべての作業を、この机ないしは棚でこなしていた。壁のまんなかに二面の窓があり、窓の前が彼にとってのデスクだった。ラジオはこの長い机の右端に置いてあり、部屋のスペースの向かい側の壁に寄せたディレクタ…

『Coyote』No.12 二〇〇六年七月号

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