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小説

廃墟の明くる日 一九六四年の美人に助けられて 2

 下高井戸で僕たちは京王線の電車を降りた。郊外でも夜はすでに始まっていた。夕食の店へ彼女が案内してくれた。ついさきほどまでは、店は満員だったのではないか。満員の夕食客が、少しだけ空いた時間だった。「コ」の字にある配膳カウンターの、長いほうの直線に惣菜がならんでいた。ひとり分の皿に載っているものは、皿ごと盆に取ればいい。大きな器にあるものは、皿にひとり分を取り分ける。ご飯とお汁を中心に客の注文をさばきながら、ひとりひとりの客が盆になにを取ったかを伝票につける役割の中年女性が、
「あらあら、今日はごちそうさま」
 …

『Coyote』No.8 二〇〇五年十一月号

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