VOYAGER

片岡義男.com 全著作電子化計画

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小説

彼と彼女の信頼関係 午後三時のハイヒール これから来るはずの、輝かしい日々。

 十一月の第一週、夕方までには雨になりそうな曇ったウイーク・デーの午後、彼女は文房具店のなかのコーヒー・ショップで、テーブルにむかってひとりで椅子にすわっていた。注文したエスプレッソが届くのを待ちながら、彼女は紙袋を開いた。ついさきほど、この文房具店で買ったばかりの、来年度用の何冊かの手帳を、彼女は袋からテーブルに出した。
 七冊ある手帳は、どれもみな外国製だった。毎年、十月から十二月にかけて、次の年の手帳を何冊も買いこむのが、彼女にとっての恒例の趣味だった。今年はこれで二度めだ。気にいったおなじ種類を毎年続けて買っている…

『週刊宝石』一九九二年十二月三日

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