VOYAGER

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小説

彼と彼女の信頼関係 午後三時のハイヒール 彼女が会社の仕事をやめる背景。

 ベッドがふたつあるホテルの部屋だ。ふたつのベッドが作る容積に対して、部屋ぜんたいの広さがほどよく調和していた。すべての調度の形や色、そして配置も、どこからも文句が出ないような無難な調和のなかに鎮静していた。
 今日の午前中に彼が予約した部屋だ。午後に出張から帰って来た彼女が、着替えをして気分を転換するために使用した。そして夕方の六時を過ぎたいま、再び彼女はこの部屋にいた。浴室で洗面台にむかい、歯を磨いていた。
 今夜は彼がこの部屋にひとりで泊まることになっていた。明日の朝、彼は出張に出る。この部屋に泊まり、ホ…

『週刊宝石』一九九二年十月二十二日

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