VOYAGER

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小説

彼と彼女の信頼関係 午後三時のハイヒール 晩夏光の町と、眠る恋人の太腿。

 北海道での休暇から帰った彼女は、すぐにまた休みを取った。今度は彼女ひとりの夏休みだった。
「四十年ほどまえの日本がまだ少しは残っているところを歩きまわり、よく見て心のなかにそれを焼きつけて来たいのです」
 と彼女は言っていた。
 四十年まえには、彼女はまだ生まれていなかった。どこにも、影も形もなかった。
「捜しにいきます」
 と彼に電話で言い、彼女は沖縄へ飛んだ。周辺の島を、二週間かけてめぐるつもりだと、彼女は言っていた。
 彼の夏休みも、まだ続いていた。彼はど…

『週刊宝石』一九九二年九月十七日

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