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小説

彼と彼女の信頼関係 午後三時のハイヒール オート・エロティシズムの見事な一例でした。

 午後五時まえに彼女から電話があった。彼は彼女の声を十七日ぶりに聞いた。
「私です」
 というひと言を耳のなかに受けとめて、安堵感が全身にしみわたるのを、彼は感じた。彼女に会えずにいた間に、本来の自分ではなくなってしまった自分が、彼女の声を聞いたその瞬間、もとの自分に戻ったような気持ちを彼は楽しんだ。
 彼女が自分に対して持っている影響力の大きさを、そのとき彼はあらためて自覚した。自分というひとつの有機体に対する彼女の作用力やあたえる効果について、彼は認識しなおした。
「どこからだい」<…

『週刊宝石』一九九二年九月十日

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