VOYAGER

片岡義男.com 全著作電子化計画

MENU

小説

彼と彼女の信頼関係 午後三時のハイヒール お人形になることの楽しさ。

 夕方、彼女から彼のオフィスに電話があった。
「今夜、私と会ってください」
 と彼女は彼に言った。
「九時過ぎに。お酒を一杯だけでも」
 彼女となら、いつでも、どこででも会いたい、と彼は常に思っていた。だから彼は、彼女との待ち合わせの場所と時間をきめた。夜の九時三十分、場所はふたりともよく知っているバーだった。
 仕事を終わったあと、彼女との待ち合わせまでの時間を、彼は友人との夕食でやり過ごした。料理がゆっくりと出てくるレストランで、友人を相手に男どうしの話をしながら夕食を終…

底本:『週刊宝石』一九九二年七月二日
『花までの距離』 中公文庫 一九九七年所収(第8章)

このエントリーをはてなブックマークに追加