VOYAGER

片岡義男.com 全著作電子化計画

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小説

彼と彼女の信頼関係 午後三時のハイヒール ストロボの光が私の肌を撫でる。

「夕方、六時三十分に待ち合わせしましょう」
 と彼女は彼に言った。
「私は早めに部屋へ帰り、したくをして出て来ます」
 待ち合わせの場所は、郊外の公園のすぐ近くにある私鉄駅の、プラット・フォームだった。仕事を五時で終わった彼は、フィルムを大量に買い、バッテリー・パックやストロボなどですでに充分に重いカメラ・バッグにおさめ、都心から私鉄に乗った。途中で別の私鉄に乗り換え、彼女との約束の時間に公園の駅に到着した。
 いちばんうしろの車両から、彼はプラット・フォームに降りた。彼のほかに数人の乗…

『週刊宝石』一九九二年六月二十五日

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