VOYAGER

片岡義男.com 全著作電子化計画

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小説

彼と彼女の信頼関係 午後三時のハイヒール お人形の物語の続きです。

 彼はコーヒーを飲みおえた。空になった紙コップを顔の前にかかげた。抽象化した花模様の印刷された、白い紙コップだった。
「素晴らしいコーヒーだった。紙コップで飲んだコーヒーとしては、これまでの最高だと僕は思う」
 彼女も右手に紙コップを持っていた。彼らふたりは、西へむかう新幹線の、グリーン車の二階の席にならんですわっていた。東京駅を出て一時間ほどが経過していた。ふたりで飲んだコーヒーは、彼女が作ってサーモスに入れ、持って来たものだった。明らかに薄めにいれた軽いコーヒーなのだが、濃くいれたときのしっかりしたボディ、…

『週刊宝石』一九九二年七月九日

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