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評論・エッセイ

叙情の影を聴いた 1

僕はその番号に電話をかけてみた。つながって呼出し音が聞こえ始めた瞬間、僕の記憶の底から彼女が蘇った。ヴォルヴォのドアの閉じる音。潮騒に重なった足音。ワイン・グラスの縁の触れ合う音。彼女は留守だといい、あるいは、いまは電話に出られない状態だといい。なぜならこの音を、このまましばらく、聴いていたいから。

『Coyote』No.30 二〇〇八年七月

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